『殺人鬼』連載時との相違

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 「殺人鬼」は昭和二二年から二三年にかけて「りべらる」において連載された作品である。
 今回その「殺人鬼」の連載された「りべらる」昭和二三年二月號を入手できたので、
 とりあえず最終回分についてその相違点を調べました。他の回も入手でき次第やろうと思います。

 結論から言うと、「りべらる」の方に誤植が見受けられました。当然といえば当然ですが。

 使用したのは
・「りべらる」昭和二三年二月號
・角川改版四版
 です。ページ番号、行数はこの角川に準拠しています。
 暇があったら角川旧版や全集等の対応も記録していきます。

 旧仮名遣いについては相違点には含めていませんが、
 相違点前後に旧仮名遣いがある場合は旧仮名遣いのまま引用しています。

 また、最終回分なのでネタバレがあります。未読の方は注意してください。

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最終回

p66 L3 「角川」半分も首をまわすことはできなかった。 「初出」はんぶん首をはまもすことは出來なかつた。 ――はまもす? L10 「角川」わッー 「初出」わッー p72 L3 「角川」しかし、その説明はもっとあとでしましょう。 「初出」しかし、その說明はもつとあとでしよう。 ――角川版の方が丁寧である。 L13 「角川」それでもゾーッと身震いが出るのをおぼえた。 「初出」それでもゾーッと身慄ひが止まるのをおぼえた。 ――「出る」と「止まる」では大違いではないか? p73 L6 「角川」加奈子がそのことについて、どういうふうに言っているかと思ったんですな。 「初出」加奈子がそのことについて、どういふふうにいつてるかと。思つたんですな。 ――誤植と言われれば誤植だろうか。 L14 「角川」怒りがまた、勃然として心の底からこみあげてきた。 「初出」怒りがまた、ぼつねんとして心の底からこみあげて來た。 ――「ぼつぜん」か「ぼつねん」かの違いである。 p74 L10 「角川」加奈子の咽喉の傷は、 「初出」が奈子の咽喉の傷は、 ――完全に誤植。 L13 「角川」加奈子を殺すつもりであったとしか思えないんです。 「初出」加奈子を殺すつもりであつたこととしか思へないんです(原文まま、句点なし) ――誤植とは思えないが、角川版の方が読みやすい。 p75 L12 「角川」耕助はゆっくりを左右にふると、 「初出」耕助はゆつくりを左右にふると、 ――これは大きな違いである。 P80 L5 「角川」私はジーンと血が凍るような思いあった。 「初出」私はジーンと血が凍るやうな思ひあつた。 ――これも一文字で印象が変わってしまう。 p86 L5 「角川」瞳が不気味につりあがったかと思うと壁をはなれて、くらくらと倒れそうになった。 「初出」瞳が不氣味につりあがつたかと思えと壁をはなれて、くらくらと倒れさうになつた。 ――誤植だろうか? L10 「角川」いまこの九州の山奥の温泉宿へ来ている。いままで私たちは無事に警察の目をくらましてきたし、 「初出」いよいよ(原文では〱)この九州の山奥の溫泉宿に來てゐる。いまゝで私たは無事に警察の眼をくらまして來たし、 ――誤植に加えて、微妙に異なっている。 L17 「角川」いままさに終わらんとしているこの手記を、 「初出」いままさに語らんとしてゐるこの手記を、 ――これも大きな違い。誤植だろうか? p87 L3 「角川」彼女にそうするようにすすめたのだが、 「初出」彼女によくするやうにすゝめたのだが、 ――個人的には「そう」の方がわかりやすい。 L6 「角川」最後に二、三、金田一耕助君の捜査の中で、 「初出」最後に一二、金田一耕助君の捜査の中で、 p89 L1 「角川」なんの希望も救いもない、いまの時代に絶望したのだろう。 「初出」何人の希望も救ひもない、いまの時代に絶望したのだらう。 L11 「角川」賀川夫 「初出」賀川夫 L14 「角川」私は八代君の手記をだれにも見せず、筐底ふかくしまいこんでおくつもりである。 「初出」(存在せず、書き足し部分である) ――ここは完全な書き足しである。


本文引用 横溝正史「殺人鬼」 考察部分 裃白沙 考察執筆 2013